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-チェンバロ製作の記録1-
注文 アフター・ルッカース、フレミッシュ・シングルマニュアル・ハープシコード・キットは、ズッカーマンによれば初心者向けです。その完成度によって3つのステージがあります。ステージ2はケース組立て済み。ステージ3は響板組込み済み、かつナット以外穴開け済。ステージ4は木工完成品。材料を切り分けただけのステージ1はありません。価格はステージ2から4までそれぞれ約$6,000、$7,000、$10,000です。ウェブページに価格の記載はありません。問い合わせると教えてくれます。よそ様のホームページやブログなりを見ると、ステージ2が選ばれることが多いようです。価格のメリットは大きいでしょうからもっともでしょう。しかし私は自信が無かったので響板組込み済のステージ3を選択しました。特にオプションは無いですが、4f’も選べるところ、8f’×2としていただきました(ここは重要)。ちなみにダブルマニュアルは、ステージ2で定価$7,400。国産完成品なら300万円は下りませんから、どうしても2段鍵盤が欲しい人には魅力的ではないでしょうか。 さて、いただいた見積は、インターナショナルディスカウントと称して定価の10パーセント引き+送料約$800、合計約$7,000でした。納期は意外な早さで、3週間。在庫があるので直ぐに出荷出来ると言います。ところが、後述しますが日米文化の違いでしょうか、これがあまり良い塩梅では無かったです。受注には25パーセントの内金が必要と言います。カードで払いましたが、このセキュリティー保持方法が原始的です。カード情報を3つのメールに分けて送って下さいとのこと。そういう方法があるのだと初めて知りました。 ※ この記事は2016現在の状況に基づいています。
ストニントン・コネチカット 注文が済んだら、後はゆったり構えていた方が良いです。というのも、あちらはだいぶのんびりしていますので。今どきアメリカがみんなそうなわけでもないでしょうが、少なくとも海辺の田舎町に工房を構えるズッカーマンは羨ましいほどにのんびりしています。 さて、納期の三週間を過ぎたが連絡は無しです。四週を過ぎたところで、こちらから問い合わせてみました。「何か問題がありましたか?無いならばもう一度納期を見積もって下さい」と優しめに。回答は、「以前に言った納期は間違えでした。実際にはもう数週間かかります。出来たら連絡します」と。一応、謝っていましたが、今度示された納期は六週間。さらりと倍に延びました。 そしてその六週間が過ぎ、七週、八週と音沙汰無し。十週めに、再び問合せました。今度はちょっときつめに(但し、礼儀は失わないように)。「私の注文はいまだ有効ですか?待つことには不満は無いですが、最初に三週間と提示されたことを考えると、あなた方に不安を感じます」と。そうしたら、ちょっと効き過ぎてしまったようで、キャンセルされるとでも思ったのでしょうか返答は一生懸命でした。楽器は高級素材を使用した高品質のものだとか、我が社は五十年以上の歴史があり、顧客にはとても満足してもらっているとか。遅延については平謝りで、何時仕上がるとは、はっきり言えない代わりに、今後進捗状況を逐次知らせると言ってきました。
進捗の報告 それから数日して、二枚の写真が送られてきました。一枚は完成間近のケース。もう一枚は鍵盤の様々な材料との説明でした。が、驚きました。だって、ケースの中に4f’ヒッチピンレールが写っているではないですか!私の注文は8f’×2ですから、当然不要な部材です。このまま響板で蓋をされてしまったら万事休すと、慌ててメールを書きました。直ぐに返事が来て(メールの返信だけは、いつも早いです)、曰く「写真のヒッチピンレールは、たまたま一緒に置いていた別な楽器のためのものです。安心してください」と。未だに私は、その言い訳を信じていませんが、蓋をする前に間に合ったので良しとしました。しかし、もし気が付かなかったらどうなっていたのだろうとは思います。当然、保証の対象だろうけれども、またアメリカに送り戻すのでしょうか。そして代品をまた3ケ月待つのでしょうか。
さらに報告 さらに一週間後送られて来た写真。一枚は響板の厚みを調整しているところ。響板は裏から見ると場所によって厚みが違うのです。もう一枚はブリッジの接着。無数の縦の棒はゴーバー。天井まで届くつっかえ棒です。これで接着部分に圧力をかけます。共にステージ2を購入すると自分でやらなければいけない工程です。当然素人ではゴーバーは使えません。皆さん重しを乗せたりクランプで挟んだりと工夫していますが、ボール紙を刺した細い釘で固定するのが確実のようです。私のキットはステージ3ですが、その釘とボール紙が何故かいっぱい付いてきました。このあたりはとてもいいかげんです。細かい部品は、やけに多過ぎて不安になることもあります。また、たまに足りないこともあります。おそらく、ちゃんと数えないで一握りとか一つまみとか、そういうやり方で袋に詰めているものと思われます。 さて、そして「もう数日で完成します」とコメントが付されていました。なんだか加速度がついてきました。
発送 そして三日後、完成報告。一週間後、トラッキングナンバーと共に発送の連絡。運送会社はUPS。自分の楽器が飛行機を乗り継ぎ成田に向け飛び立つのをリアルタイムで知ることは、いやがうえにも期待を高まらせます。 さて、成田に着いた後はどうすればいいのだろうと少し心配していました。というのも、少し古いウェブ上の読み物には、自分で空港まで受け取りに行ったとか、国内の運送業者を再度手配したとかいうことが書かれているからです。ところが、成田到着前に、不意にUPSから電話があり、通関手続きに必要な書類を用意して下さいとのこと。必要書類は、通関委任状、領収書など購入価格が分かるもの。国内輸送は西濃運輸が担当。宅配料金は輸出者側で支払い済み。通関料、関税は代引き払い。心配は杞憂でした。ただし荷が大きいので搬入時は手を貸して下さいと言われました。 ちなみに税金は、個人輸入の特例が適用。「商品総額×0.6×0.08」。手数料と合わせて約5万円でした。
到着 搬入を手伝ってくれと言われたからには、私が在宅でないといけません。西濃運輸の当該支店に連絡し、日と時間を決めさせて頂きました。 そして到着したのは、今まで見たことも無いほどの巨大なダンボール箱。しかも重い。ドライバー、助手、私、計三人で家に運び入れました。玄関から突っ込んだものの動きが取れなくなり(いや、私は無理じゃないかと言ったのですが、西濃運輸の人がやってみようと言うので)、その場で開梱。中身の本体を引っ張り出して、箱は一時退却。その他の付属品などは、窓から箱ごと再度入れ直しました。 そして緩衝材の古新聞をかき分けて、諸々の物品を取り出すと、リビングは古新聞の海。あっという間にゴミ屋敷のようになってしまいました。正直のところ、初めて後悔のようものが心に沸き出て来ました。これから楽器を作るどころか、このゴミの山をかたずけることを考えるだけで、げっそりしてしまいました。
準備 丸一日かけて、やっと片づけました。 普通こういったものの最初にやる事といったら、部品が全部そろっているかどうか内容物の確認でしょう。しかし今回はその必要は無いです。部品の点数は多いですし、細かいものは数が100を超えるので、そんなこと一々やってられ無い、、、、、というのがズッカーマンの態度のようですから、我々もそれに倣えば良いです。私の場合、実際足りない部品がありました。そして余分な部品もありました。それじゃあ最初にチェックしないわけに行かないじゃないかと思われるでしょうが、そこがアメリカの違うところです。保証期間の考え方が日本とは違うようです。日本の製品ならば保証期間内に不具合が発生するということは稀で、言ってみればそれは高品質の証明みたいなものです。アメリカでは、少なくともズッカーマンでは文字通り、言葉通りの解釈をするべきのようです。保障期間内ならば「無い」と言えば「それきた」とばかりに送ってくれます。状況を説明しろとか、証明しろとか、うるさいことは一切言いません。だから、作りながら足りないと気づいたときに申し出ればOKです。こちらとしては発送前にちゃんとチェックすれば、あちらも手間も費用もかからないのにと思うのですが、別に構わないようです。二度お願いしましたが、一度目は音楽CDを、2度目はCDと絵葉書を同封してくださいました。
木工 スタンドを組み立て、リッド、フラップにバテンをはめ、成型してケースに取り付けます。ここまでやるとステージ4とほぼ同じ状態です。特に難しいことは無いですが、カンナがけやヤスリがけが少し手間です。しかしステージ3と4の価格差を考えれば、何も苦は無いです。勿論日曜大工が好きな人には楽しいくらいだと思います。リッドスティックの天地は注意点です。
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部品の不足 キーボードフレームを組み立てている途中で問題発生。バックレールクロス(Backrail cloth)が見つかりません。色々な幅、長さ、カラーのフェルト類が同梱されているのですが、指定サイズのウールがありません。そして、無いだけでは無く、どうも違うものも入っているようです。精査してみることにしました。結果、不足のフェルト類は、
・バックレールクロス 黒ウール 1インチ × 3ヤード これらの内、キーエンドクロスは長さが足りなく5ヤードのみ。ジャックレールクロスは、あるにはあるが何故か白いウールが、やはり長さが足りなく3ヤードのみ。そして、必要の無い、おそらくオプションのフォールボード用の細いウールが相当量入っていました。 キーエンドクロスは5ヤードで必要量を満たすかどうか微妙なところです。というのも、説明書、原寸図、キーレバーに直接鉛筆で引いてある線、この三つの長さが三者三様なのです。一番短いものに合わせれば足ります。中位のものに合わせれば、ぎりぎり。長いものに合わせると足りません。機能的にはどの長さでもまあ良い様に思われます。しかし、ずいぶんいい加減です。
クレーム さて、その三つのフェルト類を足りないから送って下さいとメールを書くと、やや噛み合わない返事が。曰く、
1.バックレールクロスは確かに無いようなので送ります。 確かに、ジャックレールクロスは黒の代わりに白が入っていました。そして原寸図と比べると、おっしゃる通り倍くらい厚みがあるようです。しかし、キーエンドクロスは赤です。白ではありません。再び、この通り問合せましたところ「では赤をもう3ヤード送ります。説明書通り重ね張りにして下さい」と。まったく、、、、無用な混乱を招かないようにして欲しいものです。
ムジカアンティカ湘南「鶴さんのバージナル製作記」 白いキーエンドクロスの重ね張り。これこそが「楽器の選定」の項で述べたムジカアンティカ湘南の「鶴さん」の間違えです。重ね張りをするのは赤の場合です。白は重ねません。厚くし過ぎれば、キーに対するジャックの反応が鈍くなります。よってダンパーの効きに不具合が出るのです。とは言っても、説明書に二枚重ねにしろと書いてある以上、そうしてしまうのが当たり前でしょう。「鶴さん」に対しては気の毒ではあります。 例えば、同じことをMcCandlessさんもやってしまっています。しかし、この方の場合は二本張ったところで、どうもおかしいと気づいて、ズッカーマンに問い合わせています。私も色が違うと気づきました。ムジカアンティカ湘南の場合、完成品をショールームに持っているのですから。しかも、演奏家を呼んで、ちょっとしたリサイタルまで催しているのですから。間違えなく作れば不具合は起きないと気づいても良さそうなものです。ところがこの会社はズッカーマンに問い合わせるどころか、さらに自己流の改造を施すよう顧客に勧める出鱈目具合です。ズッカーマンに対して真面目な姿勢が無いのではないかとの疑念を禁じ得無いです。私としては、こんな中間業者のためにズッカーマンの評価が下がってしまうだろうことが残念です。
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